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■SBMAとは
  • SBMA(Spinal-Bulbar Muscular Atrophy)は、球脊髄性筋萎縮症、Kennedy病とも呼ばれている緩徐進行性の神経筋変性疾患です。
  • X連鎖性劣性遺伝(伴性劣性遺伝)形式をとり、通常30~60歳代の男性に発症します。
■症状
  • 顔面、舌、四肢近位筋[1]優位の筋力低下および筋萎縮、振戦(手指のふるえ)、筋痙攣(こむらがえり)、嚥下障害(飲み込みの異常、むせ)、構音障害(滑舌が悪くなる)、呼吸機能低下などの症状が見られます。
  • 発症10~20年前に、手の震えを自覚する場合もあります。
  • 睾丸萎縮・女性化乳房・女性様皮膚変化などの軽度のアンドロゲン不全症候や、軽度の感覚障害、肝機能障害、脂質異常症(高脂血症)、耐糖能異常(高血糖)、Brugada症候群[2]等も合併することがあります。
  • なお、四肢近位筋優位の筋萎縮が起こりますが、四肢遠位筋[3]でも筋萎縮は起こります。
  • また萎縮する筋群は、下肢筋萎縮が強い人、上肢筋萎縮が強い人、球麻痺症状が強い人、左右に差のある人など個人差があります。
  • [1]近位筋:体の中心に近い筋肉(肩、上腕、おしり、大腿など)
  • [2]Brugada症候群:危険な不整脈を起こす病気で、特徴的な心電図波形が見られます。頻度は少ないですが、心配な方はご自身が該当するか否かを主治医に確認してもらってください。
  • [3]遠位筋:体の中心から遠い筋肉(前腕、手のひらの母指球、下腿など)
■原因
  • 男性ホルモン(アンドロゲン)が発症や症状の進行に深く関与していると考えられています。
  • 1991年に遺伝子変異が同定されました。
  • X染色体の長腕のXq11-q12に存在するアンドロゲン受容体遺伝子の第1エクソンに存在するCAGリピートに、異常な伸長がみられます。
  • CAGリピートの数は、正常の人では36以下ですが、SBMA患者では38以上に増えています。
  • 同様の現象が原因の疾患を総称して、CAGリピート病、トリプレットリピート病、ポリグルタミン病とも呼ばれます。
■筋萎縮のメカニズム
  • 神経ネットワークは、大脳 → 脳幹 → 脊髄 → 脊髄前角細胞 → 末梢神経 → 神経筋接合部 → 筋肉と連携しています。
  • SBMAは、脊髄前角細胞が死滅し、脊髄前角細胞と筋肉を結んでいる末梢神経も死滅し、結果的に筋肉が萎縮します(神経原性萎縮)
  • なお、1本の末梢神経は複数に枝分かれし、多くの筋線維を支配している為、1本の末梢神経が死滅すると、それに支配されている全ての筋肉が萎縮します。
  • また、脳幹にある顔面神経核や舌下神経核等が死滅することにより筋肉が萎縮し、舌の萎縮、嚥下障害、構音障害等が引き起こされます。
  • 一度萎縮した筋肉は、元に戻る事はありません。
  • 最近の研究では、初期の段階で神経変性だけでなく筋肉の変性も生じていることが判明してきています。
■なぜ細胞が死滅するのか?
▼CAGリピートとは?
CAGリピート説明図
-CAGリピートとは?-
  • 細胞の中には核があり、核の中にはDNAが入っています。
  • DNAには、人間の生存に必要な情報が書き込まれており、この情報を遺伝子と呼んでいます。
  • DNAはC(シトシン)・T(チミン)・A(アデニン)・G(グアニン)の4種類の塩基で構成されており、この塩基配列が遺伝子の働きを決定します。
  • DNAから、転写という機構によりmRNAが合成され、さらに翻訳という機構により蛋白質が作られます。
  • 蛋白質は、折り畳まれて(フォールディング)特定の立体構造を作ることにより生物学的な機能を果たします。
  • 蛋白質は、3つの塩基から決定されたアミノ酸が連なった構造をしており、CAGの3塩基反復配列(トリプレットリピート)からは、グルタミンというアミノ酸が作られます。
  • 繰り返されたCAGからは、グルタミンがつながった蛋白質(ポリグルタミン鎖)が作られます。
  • 異常に長く繰り返されたCAGからは、グルタミンが異常に長くつながった蛋白質が作られますが、特定の立体構造を取る事ができません。
▼変異アンドロゲン受容体
SBMAにおける筋萎縮のメカニズム説明図
-SBMAにおける筋萎縮のメカニズム-
(名古屋大学より提供)
  • アンドロゲン受容体遺伝子からは、アンドロゲン受容体(蛋白質)が作られます。
  • テストステロン(男性ホルモン)はジヒドロテストステロン(DHT)へ変化し、アンドロゲン受容体と結合し、DHT受容体複合体ができ、神経細胞の核の中へ移動します。
  • 核の中へ移動したDHT受容体複合体は、男性らしさを作る等の指令をDNAに出す役割を果たし、その後、分解されます。
  • しかし、当該遺伝子の異常に長く繰り返されたCAGからは、異常なアンドロゲン受容体(変異アンドロゲン受容体)が作られます。
  • DHTと変異アンドロゲン受容体が結合した異常なDHT受容体複合体は、分解され難く、正常な蛋白質を巻き込んで核内で凝集します(びまん性集積、核内封入体)
▼神経の変性
  • 原因蛋白質である変異アンドロゲン受容体が蓄積することにより脊髄前角細胞が死滅し、結果的に筋肉が萎縮します(神経原性萎縮)
▼筋肉の変性
  • 神経原性筋萎縮に加え、原因蛋白質である変異アンドロゲン受容体が筋細胞に蓄積することにより筋肉が萎縮すると考えられています。
■遺伝
▼概要
  • X連鎖性劣性遺伝形式をとり、原因遺伝子が保因者である母親から子供へ受け継がれた場合に発症します。
  • 多くのポリグルタミン病では表現促進現象(世代を経るごとにCAGリピートの数が多くなり重症化する傾向)が見られますが、SBMAではこの傾向は強くないとされています。
  • CAGリピートの数が多いと早くに発症する傾向がありますが、CAGリピートの数と症状の進行速度に相関関係は無いと言われています。
▼遺伝形式
遺伝形式説明図
-遺伝形式-
  • SBMA患者を起点に説明します。
  • SBMA患者から生まれた男子は、変異アンドロゲン遺伝子を持ったX染色体(上図ではX3)を受け継がないため、SBMA患者にはなりません。
  • SBMA患者から生まれた女子は、変異アンドロゲン遺伝子を持ったX染色体(X3)を受け継ぐため、SBMAの保因者になります。保因者はSBMAを発症しません。
  • SBMA保因者から生まれた男子は、1/2の確率で変異アンドロゲン遺伝子を持ったX染色体(X3)を受け継ぎます。受け継いだ場合はSBMA患者になります。
  • SBMA保因者から生まれた女子は、1/2の確率で変異アンドロゲン遺伝子を持ったX染色体(X3)を受け継ぎます。受け継いだ場合はSBMA保因者になります。
■診断
▼血液検査
  • 血液中のクレアチンキナーゼ(CKあるいはCPK)値およびクレアチニン(CrあるいはCre)値を測定します。
  • CKは血中にある酵素の一つで、筋肉が壊れると細胞内のCKが血中に流れ出します。SBMA患者は、CK値が1,000を超えることがあります。
  • Crは筋肉内にある物質で、SBMA患者では0.6以下に低下します(腎臓の機能が低下すると値が上昇します)
  • SBMAの確定診断はできません。
▼深部反射
  • 座った姿勢で、膝下がブラブラする状態にします。
  • 膝下を叩くと、足がポンと前に出ます。これをしつがいけんはんしゃと言います。
  • SBMA患者は、膝蓋腱反射などの深部反射が低下もしくは消失します。
  • SBMAの確定診断はできません。
▼針筋電図
  • 腕・足・舌などの筋肉に針電極を刺し、筋肉を収縮させ、収縮に伴う電位波形を測定し、波形や数によって診断を行います。
  • この検査で、神経の障害(神経原性変化)か、筋肉の障害(筋原性変化)かが判断できます。
  • 筋肉に針を刺すので痛みを伴います。特に舌は苦痛を伴います。
  • SBMAの確定診断はできません。
▼遺伝子診断
  • 血液等による遺伝子検査でSBMAの確定診断ができます。
  • 2010年4月から健康保険が適用されています。
  • 確定診断は、自分の予後がある程度予測できるようになります。専門機関で事前に十分なカウンセリングを受け、確定診断に臨むことをお勧めします。
▼診断基準
  • A.神経所見
  • 以下の神経所見(ア)(イ)(ウ)(エ)のうち2つ以上を示す。
  • (ア)球症状
  • (イ)下位運動ニューロン徴候
  • (ウ)手指振戦
  • (エ)四肢腱反射低下
  • B.臨床所見、検査所見
  • 1.成人発症で緩徐に進行性である
  • 2.発症者は男性であり、家族歴を有する
  • 3.アンドロゲン不全症候(女性化乳房、睾丸萎縮、女性様皮膚変化など)
  • 4.針筋電図で高振幅電位などの神経原性変化を認める
  • C.鑑別診断が出来ている
  • D.遺伝子診断
  • アンドロゲン受容体遺伝子におけるCAGリピートの異常伸長
  • <診断の判定>
  • 上記のA.B.C.をすべてみたすもの、またはA.とD.の両方をみたすものを球脊髄性筋萎縮症と診断する。
■患者数
  • 有病率は10万人あたり1~2人程度、患者数2,000~3,000人と推計されています。
  • 2017(平成29)年度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は1,232人です。
■治療法
  • 病気の進行抑制が期待できる2つの治療法が開発され、2016年~2017年にかけて健康保険適用となりました。
▼リュープロレリン酢酸塩(販売名:リュープリンSR注射用キット11.25mg 武田薬品工業株式会社)
  • 2017年8月にSBMAの進行抑制薬として健康保険適用となりました。
  • 持続徐放性注射用製剤であり、12週に1回皮下に投与します。
  • リュープリンは下垂体に作用し、男性ホルモン(テストステロン)の産生を抑制します。男性ホルモンが変異アンドロゲン受容体に作用することがSBMAの発症や進展に関わるため、病因に即した治療薬です(病態抑止療法)
  • 名古屋大学神経内科が中心となって臨床試験(治験含む)が行われました。リュープリン投与により嚥下機能(物を飲み込む機能)の改善傾向が認められました。また長期間使用した群では、リュープリンを使用しなかった群に比べて、運動機能低下の進行を遅らせ、肺炎の出現を減らす可能性があることも示されています。
  • 男性ホルモンを低下させることでSBMAの進行抑制が期待されます。しかしその一方で、ホットフラッシュ、男性機能の低下、体脂肪の増加、糖尿病や脂質異常症の悪化、筋力の低下、骨密度の低下、うつ傾向などの副作用に注意が必要です。
  • 武田薬品工業株式会社から「リュープリンSRによる治療を受けられる球脊髄性筋萎縮症患者さんへ」という患者向けの小冊子が発行されていますのでご参照ください。かかりつけの医師にお願いすれば取り寄せてもらえます。
▼ロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb CYBERDYNE株式会社)
-HALによる治療の様子(2016年11月)-
独立行政法人国立病院機構 新潟病院
  • HAL医療用下肢タイプ(HAL-ML05モデル)が、歩行機能改善をもたらす医療機器として、2016年4月に健康保険適用となりました。
  • 皮膚表面に出現する生体電位から装着者の運動意図を解析し、各種センサー情報と運動パターンのデータベースを参照し、適切なモータートルクで随意運動を増強する生体電位駆動型装着型ロボットです。
  • HAL装着者の運動意図に基づいて誤りのない正確な歩行運動を繰り返すことで、脳神経・筋の可塑性を促し、HALを取り外した後の歩行改善が得られると考えられています。
  • 独立行政法人 国立病院機構 新潟病院 神経内科を中心とした臨床試験(治験)が行われました。SBMAを含む8つの神経筋疾患(球脊髄性筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、シャルコー・マリー・トゥース病、筋ジストロフィー、遠位型ミオパチー、先天性ミオパチー、封入体筋炎)を1グループとして検証され、歩行機能改善効果が認められました。
  • HAL治療において最大の効果を得るためには、適切な環境下で使用する必要があります。会員専用コーナー「SBMA患者のためのHALを使った治療前のチェックリスト」をご参照ください。
  • HAL治療+リュープリン薬物療法による複合療法においても効果が期待されています。
▼研究中の治療法
  • 治療に関する研究の最新情報は、医療セミナー、会報、情報ページ等でご紹介していきます。
  • 健康保険が適用されている治療につきましても、今後の研究の進捗や収集された情報に基づき随時改訂していきます。
■公開情報
  • 公的に公表されている情報につきましては、難病情報センターの「病気の解説」をご覧ください。
■監修
総合監修 名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学 教授 勝野雅央 先生
HAL治療監修 独立行政法人国立病院機構 新潟病院 院長 中島孝 先生